2025年5月30日金曜日
声なき呪詛
母を訪ねた、しかし警備員が私に、病棟へ入るための入館証を貸してくれなかった。
私は彼を、何も言わずに強く呪った。
彼は白痴で臆病者だ、彼はクマのように大きな男にはカードを貸すだろう。
その警備員は私をマイノリティで弱いやつだと思ったに違いない。
私は病棟へ行き、インターフォンを鳴らした。
病棟の職員が中へ入れてくれた。
母に会ったあと、看護師が、あの人たちはご高齢ですからね……と私に言った。
看護師は、奴らが親切にするには歳をとりすぎているという意味でそう言ったのだ。
看護師はドアのロックを解除して私を外に出してくれた。
母の病室には暖房が入っていた、なぜなら母が寒いと言っていたからだ。
母は、こんな寒い日には家にいなさいと私に言った。
母は高熱があるのだ。
母は寒いと何度も言っていた。
私は黒い油性ペンを持ってきた、そしていくつかのものに母の名を書いた。
母は、あんたの名前じゃないからね、私のだからねと言った。
母は、私が病棟へ入るのに苦労したことを知らない。
ここへ来てはだめだ、私は大丈夫だからと言っていた。
私は、母の疾病に特化した部門をもつ病院が東京にあることを知っている。
兄も知っているかもしれない。
医師からは何も聞いていない。
私は東京の病院でセカンドオピニオンだけでも得られればと思うが、そもそも、病名しか知らされていないのだ。
私はこうしたことを兄に言いづらい、なぜなら私は費用を負担していないからだ。
じっさい頭が狂いそうだ。
怒り狂っている。
しかしながら、もし誰かが私の背中を指で突いたら、私はわっと泣き出すだろう。
とてつもなく悲しい、これは底なしの悲しさだ。
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